ビックカメラ女子ソフトボール高崎 BEE QUEEN 上野由岐子選手

左から) ショウエミリ、上野由岐子選手、梨子本朱里(※撮影時のみマスクを外しています)

取材・撮影)球活女子アンバサダーメンバー(梨子本朱里、ショウエミリ、薮田彩、柴村典花、佐藤実桜)

2008年 北京オリンピック。決勝トーナメント、2連戦を投げ更に強豪アメリカとの決勝でも先発登板…そして金メダルを獲得。2日間で投げた“413球”は上野投手の代名詞に。その伝説から13年。自国開催“東京オリンピック”のマウンドに立った上野投手、金メダルを獲得して当然とささやかれ、想像を絶するプレッシャー、大きな期待の中でも金メダルを獲得できたのはなぜか? レジェンドと呼ばれる存在でありながら、今なお心底にあるソフトボールへの思いとは? 上野選手のパーソナルと心の内をインタビューさせていただきました。

ショウエミリ
(以下、ショウ)
本日はよろしくお願い致します。まず最初の質問ですが、上野選手が小学校3年生から福岡市南区“花畑(はなはた)ブルージェイズ”でソフトボールを始め、ピッチャーとして活躍されていたと聞きました。始めてソフトボールをしたときの思い出について教えて下さい。
上野由岐子選手
(以下、上野選手)
そうですね、(花畑ブルージェイズって)チームに女子は私だけでした。それでも友達がチームにいたこと、キャッチボールがきることが楽しかったです。まずはソフトボール云々よりも、一緒に遊べる友達ができたことが喜びでした。だから最初は、ソフトボールが好きで始めたというより、とても身近にソフトボールがあって始めたというのがありますね。
梨子本朱里
(以下、梨子本)
次は私から質問させてください。上野選手のグラブに対するこだわりについて教えて下さい。
上野選手
ソフトボールの場合、グラブってバランスという部分でも重要なんです。だからグラブの重さであったり、グラブを握ったときの感覚というのを大事にしていますね。
梨子本
上野選手のグラブを担当されているミズノのグラブ職人さんが“上野さんはフィット感を大切にされる”と話されていたのですが。
上野選手
はい、たしかにフィット感、握った感覚って大切なんです。例えばフォームも少しづつ変えていますが、その度にフォームに合わせて微妙にグラブも変えています。
梨子本
次の質問です。ディフェンディング チャンピオンとしてメダルをとって当たり前、それも金メダルを。そのプレッシャーと、上野選手の向き合い方…について、教えて下さい。私なら、この重圧から逃げ出してしまうと思うんです。
上野選手
もちろん重圧ってあります。でも…それ以上に“あきらめ切れない、思いがそこにある”ってことです。執念というか…正直、大変でつらいことも多いんです、妥協することも簡単なんですけど…
梨子本
すごい選手が世界中から集まる舞台、そして重圧など…その先に進むことで、苦しいとわかっていても、ということですよね?
上野選手
そうです、苦しいことがわかっていても“どうしても金メダルをとりたい”という思いがわきあがってきて、簡単にあきらめることができないんです。
梨子本
どんなにそう望んでも、ついつい自分にやさしく折り合いをつけてしまう人が大半だと思うんです。だからこそ、上野選手のような決断ができることがすごいと思います。
上野選手
もちろん自問自答もします“そうまでして金メダルをとりたいのか?”と。そして出した答えが“あきらめきれない、金メダルへの思い”だったということです。
ショウ
上野選手は東京オリンピック後“ソフトボール人生をかけて、情熱をかけていどみました”と話されていました。その情熱、気持ちを結果(メダルをとる)に結び付けるためにされていたこととは?
上野選手
気持ちを結果に結びつける…これって案外、難しいですよね。メダルをとりたい、その思いが強く、あきらめきれないのなら、最終的には“やり続ける”しかないんです。
ショウ
やり続けるために、気持ちを維持することなど大変だと思うのですが。
上野選手
そうですよね、やり続けるために何が必要か…それは結局のところ“どれだけソフトボールが好きか”ということになるんだと思います。
梨子本
ソフトボールが好き、それはLIKEやLOVEとか、そう簡単に受け取れない大きな意味合いに感じるのですが。
上野選手
ソフトボールをもっと上手になりたい、勝ちたいという思い、さらに使命感など他にもいろいろと含め“ソフトボールが好き”ということになりますかね…先程も話しましたが、正直、大変でつらいことが多いからこそ、この“好き”という思いが自分を突き動かしてくれるんです。
ショウ
“好き”という気持ちの他に、モチベーションをあげる方法はありますか?
上野選手
基本的に“ネガティブにはとらえない”というか、そういう性格なんですね。だから気持ちを維持できるだろうし…
ショウ
上野選手の凄い活躍と結果、それと同じぐらい印象に残っているのが上野選手のケガというネガティブなことです。そういうことが起きたときでも、ネガティブにはとらえない、ということでしょうか?
上野選手
例えば“ケガをした”ということは、普通だとネガティブに考えがちですが、私は“何かのサイン”だととらえるようにしていたんです。
ショウ
サインですか?
上野選手
そうです。実際にケガをしたとき、新しい自分を生み出すことや、そのときの自分について見つめなおすこともできました。(ケガをした)今は、こういうことをするときであって、ケガはそのサインなんだと、とらえるようにしています。
梨子本
私はついつい、そういうときにネガティブになりがちで…
上野選手
ケガをしたとき、ケガは自分を奮起させるキッカケにもなっていましたし…ケガがあったからモチベーションが落ちるということはなかったです。
梨子本
あえてモチベーションをあげる、ということをされなかったのですか?
上野選手
毎日、楽しみながら練習をしたり、ソフトボールに取り組めていれば自然とモチベーションって落ちることはないと思います。あえてモチベーションをあげることよりも、モチベーションをさげないことを考えて取り組んでいるところもあります。
梨子本
モチベーションをさげないことを考えて、というのは是非とも参考にさせていただきます。
上野選手
私の場合、ソフトボールの試合になれば自然とアドレナリンがでるし、いろいろな意味で集中できる環境って周囲の空気感が作ってくれるので、そういうことに気持ちをのせていけばいいかな、と思っています。
梨子本
上野さん、少し話しがそれるのですが…上野選手が中学時代、上野選手の試合中の態度に、お母様が激昂し強く叱られた。という話しを聞いたことがあります。そんなことがあった後も、ことあるごとにお母様は上野選手の試合を観戦されていたと聞きました。そして上野選手は、ずっとお母様の前で活躍する姿を見せてきたそうですが。
上野選手
いつも母が多くのアドバイスをしてくれていました。
梨子本
私はお母様の上野選手への大きな愛情を感じます、その一方で上野選手は“お母様に、褒められたく頑張っている”そんな感じが…するのですが。
上野選手
たしかに、そうです。子供のときも、大人になった今も、やはり“褒められる”って嬉しいことです。母に怒られることもありましたけど、その理由は自分が一番わかっていましたから。怒られる原因が自分にあったとき、母が怒ってくれる…逆に私が頑張ったときは、母はすごく褒めてくれるんです。いつも私を見てくれている母だから、その母という存在に褒めてもらえるのは嬉しいんです。そして、その母に“また褒めてもらいたい”そんな思いが今でもあります。
梨子本
ソフトボールが好きという気持ち、そしてモチベーションを下げない、こういう上野さんのソフトボールとの向き合い方、更にお母様に褒めてもらいたいも、上野選手が頑張れる大きな要因だと思いました。
上野選手
そうですね。大変なときほど、こういう基本的なことが自分を支えてくれることだと思います。
ショウ
さて今年から新しいリーグが立ち上がります。上野選手が“ファンを引き込めるように全力プレーで戦っていきたい”と抱負を語っていました。上野選手がJDリーグで伝えたいこと、観てもらいたいこととは?
上野選手
まず一番は球場に観に来てもらえるように頑張りたいです。あの球場の雰囲気であったり、あの空気感を体感してもらいたい…TVのスポーツ番組やスポーツ新聞だけでは伝わらない、そんな緊張感や白熱さは必ず感じてもらえると思うので。
ショウ
たしかに球場で観戦したとき、緊張感や緊迫した雰囲気を感じて、ワクワクしました。
上野選手
そういったことって、球場に来てもらい肌で感じてもらえることなので。私は私の精一杯を観てもらえるように頑張ります!
梨子本
ショウ
これからも応援させていただきます。本日はありがとうございました。

【編集後記】

東京オリンピック後「正直もう引退だなって思っていた」と一度は引退を考えていた上野選手。その引退をとどまらせた要因は…ソフトボールが好きという気持ち、お母様に褒めて欲しい、ピッチングをもっと高めたいという向上心などが、あったことと思います。
あと1つ、上野選手がソフトボールを続けようと思われた要因として上野選手の“執念”ということも、あったかもしれません。今回、インタビューを終えて、ふと思い出されたのが上野選手の座右の銘“強い弱いは執念の差”という言葉。困難であるとわかっていても、自分に向き合い、失敗を恐れず挑戦する…その“執念”を持っているのが上野選手。
もちろん今春からスタートする“JDリーグ”でプレイすることで、ソフトボールをもっと盛り上げたいという使命感も…あるかもしれません。
上野選手の1球1球を、是非とも球場で堪能して欲しい、そう思ったインタビューでした。

【PLAYER’S PROFILE】

ビックカメラ女子ソフトボール高崎 BEE QUEEN
上野 由岐子選手(うえの ゆきこ)
背番号 7/投手
1982年7月22日生まれ。
身長174cm、右投右打。
経歴:福岡大附属若葉高校(福岡)

取材:2021年12月