デンソーブライトペガサス 山田恵里選手

左から) ショウエミリ、山田恵里選手、梨子本朱里(※撮影時のみマスクを外しています)

取材・撮影)球活アンバサダーメンバー(梨子本朱里、ショウエミリ、薮田彩、柴村典花、佐藤実桜)

球界のレジェンド”イチロー”選手に憧れ、打撃フォームを真似して練習にあけくれた幼い日々…その後、日本代表に選ばれアテネオ五輪では銅、北京五輪では金、そして昨年の東京五輪でも見事に金メダルを獲得した山田選手。日本ソフトボール史上、No1打者と評され“ソフトボール界のイチロー”とまで呼ばれるようにまでなった山田選手が、結果を求めて常に実践していることとは? そして共に女子ソフトボール界を牽引してきた上野選手への思いとは? 山田選手が丁寧に思いの内を話してくださいました。

ショウエミリ
(以下、ショウ)
本日はよろしくお願い致します。まず最初の質問です。山田選手が始めて野球、ソフトボールをしたときの思い出について教えて下さい。
山田恵里選手
(以下、山田選手)
兄が野球をやっていたので、それで興味をもちました。たしか4歳の頃だったと思います。それから小学校に入学した後、少年野球チームに入りました。
ショウ
中学まで野球を続けて、レギュラーだったと聞いていますが。
山田選手
はい、そうです。
ショウ
その頃、よくイチローさんのフォームを研究されていたんですよね?
山田選手
はい、本を読んでフォームを真似していました(苦笑)
梨子本朱里
(以下、梨子本)
ちなみに、イチローさんへのオマージュから、今、ご愛用のグラブのベースは“イチローモデル”だと聞いたのですが。
山田選手
そこまで下調べしてもらっていたんですね(笑)、はいそうです。
梨子本
今、ご愛用のグラブへのこだわりとは?
山田選手
私のポジションが外野手なので、少しでも早くグラブをボールに届かせたいと思い、ともかく軽量なグラブにしてもらっています。あとは柔らかいグラブにしています。柔らかくすることで、球ぎわでのミスを回避したいので。
ショウ
山田選手のツイートにアップされているグラブの写真を見て、本当にステキです。カラーもこだわりがあるのかな?と思ったのですが。
山田選手
色はそこまで、こだわってはいませんが…ただ、新しいものが好きなので(笑)、新しいカラーは取り入れていますね。
梨子本
バットについての、こだわりはいかがでしょうか?
山田選手
バットの長さですが、一般的な長さよりも長いモデルを使っています。インコースが得意なので、やはりアウトコースにバットがとどいた方がいいと思い、長くしています。あとバットがしなった感じで打ちたいので、トップバランス、要するに先端が重めで、遠心力もつかって飛ばすイメージですかね。
梨子本
道具、とくにバットは結果を出すための重要な道具であり、感覚を研ぎ澄ませ選んでいると聞いたことがありますが。
山田選手
はい、打撃を常に追及しているのですが、その度に打撃フォームに合うバットを探してきた経緯があります。
梨子本
次の質問です。13年ぶりのオリンピック、そして前回オリンピックでは金メダル、更に自国開催、私たちであれば、こんな環境になったら体調を崩してしまいます。山田選手のプレッシャーとの向き合い方について教えて下さい。
山田選手
そう思われるのも当然で、たしかに凄いプレッシャーの中で戦いました。メダルをとることが当たり前、という空気感の中で結果をだしていかなくてはならないので…何をすべきか考えて“準備を重ねる”ということをしました。準備を重ねることで、気持ちも少しは落ち着きますし、自分を信じることができるようにも…。あとは“ひらきなおる”ということがプレッシャーとの向き合い方においては、大切だと思っています。
ショウ
するべきことを全てするからこそ、あとはなるようになれと“ひらきなおれる”感じになるんですよね。
山田選手
そうですね。“やることは全てやった”と、ひらきなおること。そういう意味では1つ1つ準備をすることって大切だと思います。
梨子本
このような準備をふまえて、のぞまれた東京オリンピック。私がドキドキしながら観ていたのが、7月25日、東京オリンピックのソフトボール1次リーグでした。相手は世界ランク3位の強敵カナダ。タイブレーク方式の延長8回に山田選手がサヨナラタイムリーヒット。この打席、カナダが満塁策をとりました。打席に入るまでの集中力の高め方、どうされていたんですか?
山田選手
あのケースは満塁で自分にまわってくるっていうのがわかっていたので、事前にある程度、気持ちの準備ができてはいました。そして思ったのが“えっ、私で勝負してくるの?”と、少しスイッチが入ったというか、何がなんでも打ってやる! というのもありました。
梨子本
この日、山田選手が1打席目も2打席目もヒットを打っていたので大丈夫だとは思っていたのですが…感情移入しながらドキドキして観ていました。
山田選手
あの日は打つということの感覚が、とても良かったので打席に入る前から“打てる”という感じがしていました。
ショウ
この打席のときも含め、山田選手が打席に入るときのルーティーンから見入っていました。やはりルーティーンって、大切だなって、私も思います。
山田選手
ルーティーンって、同じことを続けることで心の整理もつくと思うんです。
ショウ
実は私、山田選手のルーティーンのお話しを聞いてから朝食のことなど含め、真似させていただき、良い結果が出せるように…
山田選手
ルーティーンっていうと大変って思われる方もいますが、同じことを続けることで自分の微妙な変化に気が付けるっていうことがあります。だから(ルーティーンを続けることで)大きな問題になる前に問題の発見ができて、対応もスムーズにできるんです。
梨子本
プロ野球選手の方々にお話しを聞いたとき、バッティングの調子がよくないとき、いろいろと毎日の行動を変えてみたりするという御意見もあったのですが、山田選手の場合、そこが一貫して同じ行動を続けてみるということなんですよね?
山田選手
プロの方々なので、それぞれの調整方法ってあると思います。私の場合は、変えないで、同じことを繰り返すことで“何でダメなのか?”とか“何がダメなのか?”ということを明確にする、すると問題点などが見えてくるので、そこだけを修正するようにしています。ルーティーンの順番を変えたりってことも、できるだけしないようにしています。例えばウォーミングアップをしているとき、同じトレーニングの入り方、同じことを繰り返していると“あっ、今日はこの部分の筋肉がはっている、疲れている”ということまでわかるようになるんです。
ショウ
ちなみにルーティーンって、ある程度のことを繰り返しながら、ときとして減らすってこともあるんですか?
山田選手
場合によっては、そういうこともあります。面倒なときもあるんですよ(笑)。でも面倒だからと、やめてしまうと全てのリズムが崩れ出すというのもあります。やはり今のルーティーンにたどり着くまで、いろいろなトラブルや悩みの中で、解決させようとして試してやってみて、どれも良かったことが積み重なった内容なので、それが今のルーティーンなので。
ショウ
個人的に、山田選手のルーティーンを取り入れて、緊張する場面でも少しづつ対応ができるようになってきているんです。
山田選手
私も大きな舞台、プレッシャーやストレスが予想を上回るとき、気持ちを安定させながら行動しやすくなったのは、ルーティーンを続けて実施してきたからだと思っています。
梨子本
オリンピックなど大きな舞台で、求められる結果を出すには、体づくりも大切ですが、心づくりも大切ってことですよね?
山田選手
そうだと思います。どんなことでも、結果をだすなら準備が大切です。ルーティーンも準備の1つなので続けていきたいと思っています。
梨子本
次の質問です。山田選手が30代になってケガが多くなり、山田選手は自ら練習量を制限したそうですが?!
山田選手
そうです。練習量を減らすという判断をしたことで、それが理想と異なる結果になってしまったので…これではいけないと思い、改めて腕や肩などのトレーニングなど含めて、違う練習を始めました。
梨子本
上野選手が考えた筋力トレーニングを昨シーズン前から始めていたそうですが?!
山田選手
少し筋力をつけたい、あと瞬発的なパワーもつけたい…どうしたらいいですか?など、上野さんに相談をしました。
ショウ
それでいろいろメニューを考えていただいて、練習をされたんですね?
山田選手
はい、実際にやってみて体全体のバランスが良くなりました。パフォーマンスもあがっていると実感できました。トレーニングとか、それまでは詳しくなかったので、教えてもらい、より進化できたと思っています。(上野選手は)なかなかお近づきになれない、すごい方なので勇気をふりしぼり相談してよかったです。
ショウ
私が個人的に東京オリンピックでの山田選手のプレイと同じぐらい感動したシーンがありまして…昨シーズン最終節、ビックカメラ高崎戦、最終打席での上野選手との対戦。2球で2ストライクになりながら10球目をヒット。観ていてワクワクというか、感動するシーンでした。
山田選手
上野さんとの勝負というか、打席に立てることが少なかったので、まずは嬉しいという気持ちの打席でしたね。
梨子本
2003年、初めて上野選手と代表で同じチームメイトになった、お2人…そこから共に日本のソフトボールを支えてきたお2人の、あの最終節での試合、プレイでの会話、といいますか…お互いを鼓舞するようなシーンだったように思いました。あのとき、どんなことを考えていましたか?
山田選手
上野さんとの勝負って、やはり独特な気持ちが…あのシーンではすぐに2ストライクをとられて“あっ、いきなり追い込まれた”と思ったんですが、そこからファールを打ったり粘っていくうちに不思議な気持ちに…
ショウ
それって、どんな気持ちに?
山田選手
う~ん、幸せだなという気持ちですね。本当に幸せを感じていました…正直、この打席、この時間がもっと続けばいいのにって思いました。
梨子本
そういうお気持ちを反映させての発言かもしれませんが、山田さんが現役続行を表明“上野さんより先に辞めてはいけない”との発言がありました。
山田選手
やはり(上野選手は)1つ上の先輩ですし、ほぼお1人で日本ソフトボール界を背負ってこられた方ですし…最後まで、こんなことを背負わせてはいけない、申し訳ないと…それが唯一、自分ができることなのでは、と思っての発言です。
ショウ
山田選手のプレイ、そして上野選手との勝負が、今年から始まる新リーク“JDリーグ”で観戦できることを楽しみにしています。
山田選手
またオリンピック種目からソフトボールが外されてしまったので、やはり危機感を持っています。日本ソフトボール界の盛り上げ、JDリーグの盛り上げが大切だとも思っています。そのためにできること、まず感動してもらえる試合をすることだと思うので、がんばります!
ショウ
梨子本
私たちも、これからも応援させていただきます。本日は貴重なお話しをありがとうございました。

【編集後記】

東京オリンピック後「役目は果たせた」と自身の進退“完全燃焼”を強調していた山田選手だったが、昨年末10月24日の最終打席、上野投手との勝負で、気持ちを奮い起こせたそうだ。インタビュー後「ずっと同じ時代を過ごした先輩、そんな先輩とまだ同じ舞台に立ちたいと思わせてもらえた。だから特別な思いがあり、その思いを今シーズンは持ち続けたい」と話して下さいました。
是非とも、この2人の思いもかみしめながら、JDリーグ 試合会場で名勝負を観て欲しいです。

【PLAYER’S PROFILE】

デンソーブライトペガサス
山田 恵里選手(やまだ えり)
背番号 7/外野手
1984年3月8日生まれ。
身長165cm、左投左打。
経歴:厚木商業高校(神奈川)

取材:2021年12月