大学野球の経験が生きる上でプラスになる…:内藤雅之

公益財団法人 全日本大学野球連盟/常務理事・事務局長

大学野球への関心を高め学生野球の発展に貢献したい

高校野球に比べれば、大学野球の人気は決して高いものではありません。大学野球を活性化するにはどうすればいいか。 野球部員のレベルアップや大学野球ファンの獲得など、大学野球の現状について、公益財団法人全日本大学野球連盟の内藤理事にお聞きしました。

大学で野球をやりたい人が増えている

●大学野球にはどのような大会があるのですか?

内藤理事(以下、内藤)  大学野球の全国大会は、毎年6月に行われる「全日本大学野球選手権大会」と、11月に行われる「明治神宮野球大会」があります。前者は1952年(昭和27)年から始まり、2017年で66回目を迎えます。後者は、1970年(昭和45年)に明治神宮鎮座50年を記念して始まりました。2016年の第47回大会では、大学の部で11校、高校の部で10校が集まり、トーナメントで試合が行われました。一日で大学と高校の試合が観戦できるという大変興味深い野球大会です。

●やはり、高校の「センバツ」とは違うものですか?

内藤 全国高等学校野球選手権大会の参加校は4千校以上ありますが、大学野球は全国で約380校。2016年の大会では、全国26の大学野球連盟から代表校27校が出場し、日本一を競いました。 高校野球との大きな違いは、大学の所在地は首都圏や大都市圏に集中しており、全国の各地域にないことです。リーグ戦をするにしても、他県の試合場所まで移動するなどの負担がかかります。たとえば、北海道地区は札幌周辺に大学が集まっており、その他の地域は少ないため、北海道には札幌とその他の地域を統括する2つの野球連盟があります。九州には3つの連盟がありますが、沖縄まで含めるので試合をするのも大変です。こういうことから2016年の全国大会から九州地区大学連盟を南北に分け、出場校の枠を増やしました。一方、東京・関東地区には7つの連盟があり、関西地区には5つの連盟があります。全国26連盟のうち12が関東と関西に集中しているのです。高校野球と違って、大学野球は県単位での連携がむずかしい状況です。

●大学野球の部員は増えているのですか?

内藤 ここ10年で部員は右肩上がりに増えています。少年野球から社会人野球まで、選手の人数が減少する中で唯一増えているのが大学野球なのです。増加の要因は、私の感覚では、少子化による大学生全入時代の到来が背景にあるのではないかと思います。大学入学希望者総数が入学定員総数を下回る状況から、高校卒業後に大学に進学する人が増え、結果的に大学の野球部員が増加しているようです。以前は、高校を卒業して社会人野球を始める人もいましたが、企業の野球部も減っています。高校の野球部員は約16.8万人で、大学野球は現在2.8万人です。大学への進学率が高まっていることから、今後も増える可能性があります。 大学の4学年で何人が野球をやっているかというと、東京六大学野球連盟※でいえば慶應大学と立教大学の部員数が約200人で、早大・明大・法大で約150人、一番少ない東大でも80人ほどの野球部員がいます。六大学の野球部員のうち、卒業生がだいたい200人いるのですが、そのうち、卒業後も野球を続ける人がどれほどいるかというと、プロ野球の道に進む人が多いシーズンで10名ほど。社会人野球でレギュラークラスになれる人を合わせると約50人ぐらいしか本格的に野球を続けませんし、続けられる環境ではないです。独立リーグに入る人も若干いるかもしれませんが、残りの150人が大学野球までで終わります。そういった中で、全体的には野球部員は増え続けているわけです。

大学野球の経験が生きる上でプラスになる

●大半の部員が大学野球まで終わって、その後は就職するのですね。

内藤 そうですね。大半は一般企業に就職したり、公務員や教員になったります。大学野球を4年間続けて精神的に成長している学生は多いと思います。というのも、以前よりも名前だけ在籍という幽霊部員は減り、真面目に練習に出てくる学生が増えてきました。もちろんレギュラーを目指すでしょうが9人しかなれないものですし、プロ野球に行ける人はもっと絞られていく。レギュラーになれなくても、4年間野球に打ち込む人が増えているのは、野球をやることが就職面で有利だとわかっているし、社会にも認められているからです。全日本大学野球連盟としても、野球をやってきた学生はビジネスにおいても重宝されると考え、いろいろ後押ししています。

●具体的にはどんなことを?

内藤 東京六大学野球連盟での活動になりますが、入学時と卒業時に研修をするのです。まず、6月末から7月頭に新人の野球部員を集め、丸一日かけて新人研修会をやっています。内容は、まず東京六大学の歴史を知る講義から始まり、全員で「野球殿堂博物館」に見学に行って、館長の話しを聞いたりします。明治神宮球場というフランチャイズができた背景など、東京六大学連盟が野球界の発展に貢献してきたことを知り、その一員となる心構えを学びます。他にも弁護士による法令に関する講義を行います。法に反する行為は自分だけの問題ではなく、チームや社会に迷惑をかけることなんだと、たっぷり時間をかけてレクチャーいただきます。 一方、卒業時の活動ですが、就職活動に取り組む3年生を対象に、2016年から就活セミナーを開始しました。学生の参加人数は約200名。エントリーシートの書き方や面接の心構えといった講義のほか、合同企業説明会を開催しました。業種が偏らないよう20社ほど集め、各企業にブースを出してもらって会社説明を約30分単位で実施しました。興味を持てるような会社が見つかるようお手伝いをしています。 それから、プロ野球の選手になる部員も数名います。こちらに対しても、プロ野球選手の心得や弁護士によるコンプライアンスの講義を行います。プロになれば、自分で報酬を管理するので税務についての講義も税理士の方にしていただいています。このように、入学という入口、卒業という出口で、野球部員の社会的側面をサポートしています。



●そうしたサポートまでしてくれると、大学に入って野球をやる意味は大きいですね。

内藤 当然授業にも出るので教育によって知識や教養が広がるし、野球部員として同じ釜のメシを食べることで連帯感も生まれる。また、他大学とのつながりもできるし、そうしてできた人脈は社会に出て役立ちます。大学野球の経験が、人生の財産になるようにしていきたいですね。 また、東京六大学野球連盟では、2016年に「東京六大学野球ゼミナール」という活動を始めました。これは、野球部以外の学生を対象に、野球などスポーツやその運営、スポーツビジネスを学ぶことを目的にしています。「東京六大学野球活性化策の企画・実践」をメインテーマに、さまざまなジャンルの講師を呼び、勉強してもらって、最後に学生から研究発表をしてもらいます。3年生が2017年4月の六大学野球春季リーグ戦から活動を展開し、4年生になって実行できるものはやっていく予定です。単位は取得できませんが、将来的にスポーツ・マネジメントといった仕事をしたい学生にとっては実践的な内容となっています。 大学野球の観客動員を上げるにはどうすればよいか。世間の関心を引くのもことも必要ですし、大人の方にも観ていただきたいのですが、やはり学生のファンを増やしたい。大学生を集めるにはSNSが一番強いと考え、こういったツールを積極的に活用しています。少しでも大学野球を認知させ、自分の友だちである野球部員を応援する学生が増えてくれればと思います。

東京オリンピックは最強チームで臨みたい

●ところで、野球がオリンピックの公式競技に復活しました。学生の中にも出場を目指す方が増えてきそうです。

内藤 私は全日本野球協会の専務理事もやらせていただいてまして、プロ野球側と「日本野球協議会」という組織を作りました。プロとアマ、日本の野球界が一体となって、野球・ソフトボールの普及・振興を図ることを目的に、東京オリンピック・パラリンピックの追加種目になるよう活動してきました。 私は、日本の野球のトップチームはプロだけでつくるものではないと思っています。大会に臨む時に、本当に実力をもった選手が大学生や社会人にいたらぜひチームに入れたい。金メダルは絶対に取るというようなことを日本の皆さんが期待しています。アマだけ、プロだけと分けず、その時に一番強い選手が集まったチームをつくりたいですね。大学野球でも、トップチームにふさわしい選手がいればオリンピックに送り込むというようなことがあると思います。過去、アジア野球選手権で大学生のピッチャーが選ばれたことがありました。ドラフト一位になるような実力を持った学生選手は当然選ぶべきです。そこで、「日本野球協議会」ではプロとアマが合同で野球振興に取り組む、「普及・振興委員会」を起ち上げました。まだ進行形ですが、今後、さまざまな提案が出てくると思います。

●最後に、子どもに野球をやらせたいというご家庭にメッセージをお願いします。

内藤 野球というと、小学生から野球教室に入って始めたりしますが、そうした子は「野球をやる子」です。もっと手前の段階で、子どもたちに野球はおもしろいものだと思ってもらう必要があります。小学校で体力検査すると「ボール投げ」運動の能力が落ちていると言われています。おそらく幼少の頃に「野球遊び」をやっていないからでしょう。 今年、全日本大学野球連盟・監督会の会長である明治大学の善波監督がおっしゃっていたことですが、大学の野球部は自前でグラウンドを持っているので、それを利用して、大学生が地域の子どもたちに「野球遊び」をしてあげてはどうかと提案されました。 子どもたちに指導するのは、連盟の役員ではなく学生です。すでに「野球みたいなボール遊び」を実施している大学がありまして、そのやり方を録画してDVDで配布したいと思っています。東京六大学でも、年2回は必ず小学生対象に野球教室をやっているのですが、一定年齢以上なので、もっと小さい子を対象としたいところです。一緒に「野球遊び」をするのは高校生でもいいし、あるいは女子マネージャーのほうが、うまく教えられるかもしれません。立教大学では、グラウンドがある埼玉県新座市の地域の幼稚園児を集めて実施しました。学校や市役所などで紹介してもらえば、もっと幅広く活動できると思います。今後もやり方を探って展開したいと思います。

●野球の普及には、地域密着で取り組むことが重要のようですね。今日は、ありがとうございました。

※東京六大学野球連盟:加盟大学は早稲田大学野球部、慶應義塾体育会野球部、明治大学硬式野球部、法政大学野球部、東京大学運動会硬式野球部、立教大学硬式野球部。
1925年(大正14年)に結成され、2015年に90周年迎えた。

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